医学への目覚めと循環器内科への道
心不全や狭心症、心筋梗塞などの心血管疾患の患者が、運動療法や生活指導などを受ける「心臓リハビリテーション」に取り組んでいる大分中村病院。そこで「患者ひとりひとりの幸せ」を追求し、医療チームを率いているのが、循環器内科医として長年活躍している大分中村病院・副院長の渡邉医師だ。
「はじめは気象予報士になりたかったんですよ」
柔らかな笑顔でそう語る渡邉医師。その発言からは想像できない情熱的な医師としての歩みは高校時代に遡る。当時気象や物理、化学に深い興味を抱いていたという渡邉医師。進路に迷っていたとき、教師のすすめで医学部への道を選んだ。大学入学当初は、医学そのものに特別な魅力を感じることはなかったという。検査や病気について深く学ぶ機会が増える中で、「医者という仕事の意義とやりがい」を実感するようになった。
在学中、さらに心を突き動かしたのは、高校生の頃に観て強く印象に残っていたドラマ『外科医 城戸修平』の存在だった。主人公の外科医が繰り広げる命のドラマを観て、「手技で人を治す」という憧れが芽生え、ずっと消えることなく心の奥でうごめいていた。
転機が訪れたのは臨床実習のとき。循環器や消化器など様々な分野が集まる内科の講義で、心を打ったのは心臓の講義だった。その当時、大分県で始まって間もない心臓カテーテル治療の技術に触れ、患者が元気を取り戻すその過程に、医療の持つ力を肌で感じたという。
大学卒業後は、大学病院で研修医として経験を重ねたのち、循環器内科医として、虚血性心疾患に対する心臓カテーテル治療を専門に、長年にわたり患者の命を救う最前線で活躍した。

患者一人ひとりの「幸せ」に寄り添う最適な治療とは
医療の現場で患者たちに新たな人生の一歩を踏み出す支えとなっている渡邉医師だが、その道のりは決して平坦ではなかった。若い頃には、痛みを伴う経験もあったと振り返る。それでも、数多の試練を乗り越えた今、心には揺るぎない信念が根付いている。
それは“患者にとって最適な治療を考える”こと。
「僕らは患者さんありきです。患者さんが喜んでくれることが何より大切だと思いますし、そうあるべきだと思っています」と渡邉医師は語る。

その言葉の背後には、患者自身の訴えに耳を傾け、最良の選択肢を共に模索するという信念が根付いている。例えば、高齢の患者が苦しい症状を抱えている場合、薬だけで解決できないケースもある。そのような時は、治療の選択肢を分かりやすく提示し、患者とともに判断していく。治療の提案は決して一方的ではなく、患者の意思を尊重しながら丁寧な対話を重ねていくのが特徴だ。
さらに、医師個人の判断に留まらず、患者や家族との話し合い、そして多職種で構成されるチームによる協議を通じて、治療方針を定めていくという。
またリスクが伴う治療の現場では、患者にそのリスクをどう伝えるかということも大きな課題となる。「リスクを強調しすぎると患者さんに過度の不安を与えてしまいます。ただ、リスクを軽視するわけにもいかない。その塩梅が非常に難しい」と渡邉医師は苦労を振り返る。
そのため文書による確認や署名といった形に残すことも欠かさない。一方で、形式的な手続きに頼りすぎることへの葛藤もある。「患者さんと直接の信頼関係の中で理解し合えるのが理想」と、その胸の内を明かす。
こうした患者のことを第一に考えた丁寧で細やかなアプローチにより、一人ひとりに寄り添った医療を提供し、安心と信頼を築き上げている。
治療のその先を見据えて。未来の生活の質を守る心臓リハビリテーション
そんな渡邉医師が、現在先を見据えて注力しているのが「心臓リハビリテーション」だ。心臓リハビリテーションは、心臓病の再発予防を目的とした包括的なプログラム。治療方針の指導や生活習慣の改善を助言する医師を中心に、療養や生活面での指導を担当する看護師、運動療法の指導を行うセラピスト、薬の役割や服用をサポートする薬剤師、食事管理や特定の食品に関するアドバイスを行う管理栄養士といった他職種が連携して、患者が元気で質の高い生活を長く送れるようサポートするというもの。
「手術後、患者さんは症状も消失し一時的に元気になります。以前は、『良くなりましたね』とそのまま退院し、さらなる介入もせず経過観察することが一般的でした。しかし、その後の生活習慣を見直さずに、例えばタバコを吸い続けたり、食事に無頓着であったりすると、数年後には再発してしまう。そして再発時には症状が重くなり、場合によっては命を落とすこともあるのです」。長年の現場経験を通じて、渡邉医師は「治療の先」に目を向ける重要性を痛感した。

多職種が関わる心臓リハビリテーションでは、より良いチーム医療の実現が欠かせない。渡邉医師が率いるチームは、患者一人ひとりの生活に寄り添い、心身の健康を支えるために結束力の強いチーム医療を実践しているのが特徴だ。
「昔は、医者が言ったことがそのまま決定事項になる時代もありました」と渡邉医師は振り返る。しかし、現代の医療現場では、トップダウンではなく、ボトムアップのアプローチが重視されているという。
「患者さんと医者が直接話す機会ももちろんありますが、実際にはセラピストや看護師の方が長い時間患者さんと接していることが多いんです。その中で、本音や本当に困っていることが聞き出されることもあります」。現場で得られた意見や声を重んじ、治療に反映させるため、現場では、日常のコミュニケーションを大切にし、多職種が集まるカンファレンスを定期的に開くなどしながら、日々情報共有に努める。
そんなチームには、向上心と熱意にあふれた人材がそろっているという。チーム全体が常に新しい知識や技術を学びながら、患者のニーズに応える医療の実現に貢献している。
そんな中、最近の出来事で心に残る嬉しい瞬間があったという渡邉医師。 ある日のこと、90歳の高齢女性が治療について相談に訪れた。当初、治療を受けることに消極的だったが、本人と女性のご主人、渡邉医師とで何度も話し合いを重ね、最終的に治療を受けることを決断。その後、その女性から「治療を選択してよかった。今後もリハビリに通いたい」と感謝と前向きな言葉を受けた。「長年医師をしていますが、いつでも患者さんが喜んでくれることが何より嬉しい」。何年経っても患者からの言葉が医師としての喜びにつながることを改めて感じた。
地域医療の発展と次世代へつなぐ取り組み
「これからは心臓リハビリテーションの活動をさらに広げ、急性期から慢性期、訪問診療に至るまで、より充実した医療を展開できればと思っています」と語る渡邉医師。
その取り組みのひとつが、「心不全ポイント」の導入と活用だ。「心不全ポイント」は、大分県が推進する「心不全対策推進事業」の一環で、患者が自分の体調変化を把握し、適切なタイミングで受診や対処を行うために活用される仕組み。例えば、体重や浮腫の増加、息苦しさの悪化などの症状でポイントを加算。そのポイント数に応じて「救急車の呼び出し」「外来受診する」などの行動指針が示され、「どのタイミングで受診すればいいかわからない」という悩みを抱えがちな患者自身が判断できるようにサポートする。循環器内科では、このシステムの導入により、迅速かつ適切な医療を受けられる環境が整備されつつある。

また心臓リハビリテーションにおいては、現在主に入院患者を対象に行われているが、今後は外来でもリハビリを受けられるよう、体制の拡充を予定している。さらに、病院への通院が困難な患者に向けて、訪問診療を実現することも視野に入れ、より地域に根ざした医療の提供を目指す。
そのほか、災害医療の最前線で活動するDMAT、その院内チームの統括役を担う渡邉医師は人材育成にも注力。DMATの活動は、地震や災害などの緊急事態において、患者の命を救うためのもの。そのため、常に定期的な訓練をし、体制を維持しておかなければいけないという。現場から退くメンバーに代わり次世代へとスムーズに引き継ぐ仕組みが求められるため、若手メンバーの育成を重要な役割と考え、熱心に取り組んでいる。

また自身のキャリアの終盤を見据え、次世代への引き継ぎにも一層力を入れる。「私自身も、あと数年で現場から退くことになると思います。その後を担う次世代にしっかりと引き継いでいきたい。勉強を重ね、より高いスキルを持って活動できる若手医師やスタッフの育成に取り組みたい」と語る。
この想いと努力は、持続可能な医療を次世代に託すだけでなく、病院全体の発展を後押しし、地域医療の未来をさらに明るいものへと導いていく。

当院は2024年8月より外来心臓リハビリを開始しました。
他院で心臓血管手術をされた患者さんも、当院で継続的に心臓リハビリを処方することが可能です。
詳しくは、地域連携部へお問い合わせください。
・来院希望の方:TEL:097-536-5050
・医療機関の方:TEL:097-537-5153 / FAX:097-537-5236
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