OITA NAKAMURA HOSPITAL

Feature[ 特集 ]

意匠設計者と語る(2)

落ち着きのあるインテリアや照明を採用
いつでも快適、安心の病棟に

speaker 話し手

2024年、大分中村病院は新病院へ移転しました。24時間365日患者を受け入れる「二次救急」と「リハビリテーション」を二本柱に構想から完成に至るまで4年の歳月を経て開院した新病院。このプロジェクトに大きく尽力された株式会社横河建築設計事務所様と大分中村病院のプロジェクトチームに、その特長や魅力について語ってもらいました。

山根敬隆

株式会社横河建築設計事務所
設計室 建築設計部次長

山根敬隆(やまね のりたか)

山田祐樹

株式会社横河建築設計事務所
設計室 建築設計部

山田祐樹(やまだ ゆうき)

岐部千鶴

社会医療法人恵愛会 大分中村病院
看護部長

岐部千鶴(きべ ちづる)

梅野裕昭

社会医療法人恵愛会 大分中村病院
事務部長

梅野裕昭(うめの ひろあき)

前回の記事はこちら
1)ユニバーサル外来を目指して スムーズな動線と迅速な連携を実現

落ち着きのあるインテリアや照明を採用
いつでも快適、安心の病棟に

山根:病室内のインテリアについてはいかがですか。

岐部:病院の設備は濃い茶色の木目を使用していることが多いんですが、今回白に近いグレーを基調にしていただいて、外観と内観も整合性があり、随所で使用しているローズとグリーンの色味もすごくマッチしているので全体的にやわらかい一体感があり、落ち着きます。

山田:家具の色をどうするかという部分も看護師さんとお話ししましたね。

岐部:大分中村病院としての特徴を出したかったのと、今まで見てきた病院とはちょっと違う感じにしたかったので、とてもよかったなと。

山根:壁紙も白く見えるけれども、実は全くの白色というものはないんですよ。

岐部:そうそう、そうですね。

山根:薄いグレーが入っていたり、ブラウン調にしました。これもやっぱり患者さんがいろんな部分に目を向ける際、白だと目が疲れやすいことを考慮して、落ち着いた色に落としていきました。

岐部:照明もすごく考えてくださいましたね。

梅野:働く場所として、改めて明るさや照明って大切なんだと実感しました。病棟の柔らかい感じが落ち着きます。

山根:廊下の照明は就寝時かなりの光量を落とせるようにしていますが、患者さんの睡眠環境を妨げないように極力注意を払いました。その辺りどうですか?

岐部:4床室の廊下側のベッドサイドにも窓がついているので、実は心配ではありましたが、照明が眩しくて眠れませんというような声はないですよ。ステーションも消灯時暗くしたり、スタッフも自分のヘッドライトを使うなど気遣ってくれているので、患者さんの睡眠に影響するような灯りにはなっていません。

山根:廊下の照明とスタッフステーションの上の照明も調光式にしていましたよね。

岐部:調光式なので、患者さんからも便利がいいと評判です。

職員同士のコミュニケーション円滑化を図る
フリーアドレス制のワークプレイス

山根:スタッフの皆さんが働きやすい環境を作るのも1つのテーマでした。医局から事務、理事長、院長たちも同じスペースという、多職種混合のワークプレイスを作りました。このスタイルは浸透するようでしていないという現状もありますが、大分中村病院さんはこのスタイルを採用していただきました。開院から半年経ちますが、皆さんのコミュニケーションはいかがでしょうか。

岐部:それはもう事務部長が1番感じていますよね。

梅野:はい。やっぱり移動もしやすいですし、事務が看護管理と一緒になったことで、やりとりがすぐできます。看護部長はじめ、理事長、院長との距離感も一般職員と近くなりました。

岐部:医師のところにもすぐ行けます。

梅野:医局もオープンで繋がっているので、ワークプレイス側に電子カルテを置いている場所があるのですが、医師の方々にも声かけもしやすいです。

岐部:医師と医局で机を挟んで向き合うと少し重い空気になるんですけど、ワークプレイスは他の先生方や職員もいるので、割とフランクに話ができます。中央をフリースペースにしたことで、他職種間のコミュニケーションも活発です。

梅野:以前はちょっとしたミーティングでも常に会議室の引き締まった空間でしたが、今は簡単な打ち合わせはフリースペースで行うことができ、議論しやすい環境だと思います。

岐部:例えば、「今、栄養士さんと看護師長が話してるな」とか通りすがりに見て、何かあるのかなと関心も持てます。

梅野:事務エリアはフリーアドレス制を導入していますが、自分の席がないので、片付きますね。物ってそんなにいらないんだと実感しました。

山根:皆さんの働く場所に必要な面積っていうのは割と多いんですよ。これをいかに滞在時間が少ない場所に割り振るのではなくて、それぞれの主戦場となるところに面積を充当していくことに注力しました。これがうまく機能しているのであれば幸いです。

岐部:今、在室か不在かなど、院長や理事長の動きもすごくわかりやすくなりましたし、部屋に入りやすくなりましたね。

梅野:コミュニケーション重視で進めてきたので、実際使ってみて使いやすさも分かりました。外部の方が来られた時とても新鮮に感じられるようです。フリーデスクを導入している病院はあまりないようです。

山根:そうですね。看護師、事務、コメディカルの方がよりコミュニケーションを日頃から取っていくスタイルを採用することで、医療提供方針など早まるといった効果も期待できると考えています。

岐部:環境がもたらす風土の変化みたいなものはあると思いますね。オープンスペースになったので、結構いろんな職種の人たちが相談に来ています。今は応援に行く、逆に応援に来てくれるというのが自然にできて、風通しが良くなったなと思います。

ホテルのようなエントランスや高級感と落ち着きのある内装

岐部:エントランスの高級感は、材質も含めてやっぱりすごいですよね。今までの病院とは全然違う。「ホテルみたいですね」ってよく言われます。

梅野:新病院のアクセントとなる青がいいと皆さん言ってくださいますね。今回のロゴもですが、設計当初から山根さんが「青」を推してくださって、結果すごく病院のイメージに沿っていると思います。

山根:リブランディングにあたり、ロゴを変更されましたよね。「ONブルー」の選定に結構時間を取られましたよね。我々もそこに合わせるためにギリギリまでインテリアの選定を待ちましたね。

岐部:ええ、そうでした。

山根:外壁の青を支える白は綺麗に見えますが、実は真っ白というのは一切使っていないんですよ。外観だけでなく、病院内すべての白に若干グレーが入っています。1階の受付部分は、逆に少しモノトーンにして患者さんが安心できる、「迎えられる空間」にしたいという想いは強くありましたね。

山田:エントランスの階段部分に縦に入ったグリーンベルトがより効果的かなと思います。聖火トーチがアクセントになって無機質になりすぎない印象です。

山根:2021年のパラリンピックの聖火ランナーとして中村理事長が走りましたよね。実はその次の日に長野に行く予定だったので、長野で合流して病院の視察に行こうと言われていました。たまたまテレビで開会式を見ていたら、理事長が走ってらっしゃったので驚きました。この聖火トーチに深い意義とチャンスを感じ、患者さんの目に触れるところに置きたいと思ったんですよ。無機質な壁になることは避けたかったので、ローズピンクの色合いがすごく綺麗な聖火トーチを飾る場所に急遽グリーンを配置しました。

岐部:全体と調和していますし、少しほっとする空間ですね。

山根: 地下の駐車場から受付フロアに階段で上がってこられる患者さんも多いので、その階段の壁に1本グリーンベルトが入るというのはすごくアイコンになっていて、良かったかなと思います。


次の記事「患者さんに寄り添う『質実剛健』な病院を目指して」へつづく

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