OITA NAKAMURA HOSPITAL

Feature[ 特集 ]

意匠設計者と語る(1)

ユニバーサル外来を目指して
スムーズな動線と迅速な連携を実現

speaker 話し手

2024年、大分中村病院は新病院へ移転しました。24時間365日患者を受け入れる「二次救急」と「リハビリテーション」を二本柱に構想から完成に至るまで4年の歳月を経て開院した新病院。このプロジェクトに大きく尽力された株式会社横河建築設計事務所様と大分中村病院のプロジェクトチームに、その特長や魅力について語ってもらいました。

山根敬隆

株式会社横河建築設計事務所
設計室 建築設計部次長

山根敬隆(やまね のりたか)

山田祐樹

株式会社横河建築設計事務所
設計室 建築設計部

山田祐樹(やまだ ゆうき)

岐部千鶴

社会医療法人恵愛会 大分中村病院
看護部長

岐部千鶴(きべ ちづる)

梅野裕昭

社会医療法人恵愛会 大分中村病院
事務部長

梅野裕昭(うめの ひろあき)

ユニバーサル外来を目指して
スムーズな動線と迅速な連携を実現

山根:まず1階の外来についてですが、患者さんが分かりやすい「ワンループ外来」を軸に設計しています。15メートルごとに受付や診療科を集約し、高齢化社会に備えて大体60メーターで1周できるようになっており、動線の迷路化を避けているところがポイントです。

岐部:検査室や放射線室が全部並んでいるのでとても便利です。

梅野:実際外来の動線はどうですか?

岐部:入口から入ってすぐに受付が見えますし、外来の動線はわかりやすくなっています。支払いもしやすい形になっていますね。

山根:患者さんが何度か来院を重ねるうちに自然に位置関係がわかるので、受付手順もスムーズになりますね。今回は床面積が限られている中で、機能を集約しています。例えば1床あたり50〜 55平米という民間病院の中ではかなりコンパクトに作られています。
その中で私たちが大事にしたのは、「何かを諦める」ことをしないこと。本来必要な諸室面積を最適値に近づけるように工夫し、必要以上に長い導線や広すぎる待合室を作りませんでした。これは皆さんと会議しながら、決めていった記憶があります。

岐部:外来は診療科を分けず、中央処置室を設けていただいたので、処置が一元化されたことが1番のポイントですね。旧病院は外科や内科など診療科が散らばり、職員同士が見えなかったんですが、今は処置室を中心に各診療科の配置ができているので、周囲を見渡しやすく、職員同士の協力もしやすい構造になったかなと思います。

山根:外来については基本的に各診療科をグルーピングせず「ユニバーサル外来」を謳われていましたね。

岐部:ええ、そうですね。

山根:とはいえ、やはり診療科目に特化していくことも想定されたので、特に苦労したのは、中央処置室の位置ですね。診察室から流れを作るのか、違う場所にすべきなのか、かなり議論があったと思います。今回、その救急外来との連携を踏まえて、各診察室の並びの中央部に処置室を配置するというのが当院の大きな特徴になっているのかなと思っています。

梅野:先日、ある別の医療機関の医師とお話する機会があって、ご家族の受診に同行されたときに「いいですね」と言ってくださって。それが綺麗なのはもちろんですが、「“機能的にいい”」という意味でと言ってくださいました。

山根:嬉しいお言葉ですね。

梅野:医療関係者に機能面の良さを感じ取ってもらえるような作りになっていますね。

岐部:コンパクト、かつ機能が集約されていて、動線も無駄に長くないですよね。私の過去の職場での経験上、患者さんが長い距離を歩いて検査して、また戻ってということが多々あり、大変だろうなと思っていました。それに比べると病棟を一周しても疲れにくいです。外来の患者さんが高齢化していく中で、本当によく考えて作っていただきました。

山根:通常の病院と比較しても動線距離を短くしています。DX社会がさらに推進され、例えば待合室で待つという時間を減らせれば、待合室は適度な広さでいいんですよね。

アラウンドビュースタイルのスタッフステーションを採用
より円滑で良質な医療を提供できる環境に

山根:大分中村病院の目玉はやはり病棟ですね。スタッフステーションは壁をなくし、迅速な対応と連携が可能なアラウンドビュースタイルを取り入れています。患者さんの急変に対してスタッフの方がいち早く察知し、動けることができるように、病室とステーションとの距離は短く、視認性は高くなっています。それはスタッフの労務環境にも関わってくるのかなと考えています。それに関して実際に運用を始められていかがですか?

岐部:そうですね。 動線はもちろん、視認性が良いことで、スタッフが急変対応していたら、すぐに応援で駆けつけることができるのでストレスの軽減につながると思います。

山根:ステーションをどのように作るかが1番のポイントでしたね。カウンターの高さも皆さんと議論したと思います。座って作業している状態でも、車椅子で廊下を移動されている患者さんを視認できる高さであるとか。スタンディングで作業する場合は、もう少しカウンターをあげましょうとか。とにかく視認性に重点を置かれましたよね。注射準備室についても、当初はガラス張りにするのかどうか、かなり議論したと思うんですね。それはどうですか?

岐部:全面ガラス張りを採用してよかったです。作業が見える状態で、死角も生まれないということでは安全面につながっています。

山根:病室についてはいかがですか?

岐部:患者さんのスペースに仕切りのカーテンを作ってもらいましたが、単純な仕切りではなく、作業スペースを確保した仕切りなので、4床室で急変が起こっても、カーテンを閉めて対応でき、すごく良かったなと思っています。
つまりベッド間のカーテンは通常1本なのですが、今回の病室では、2 本カーテンを入れることにより、急変時にベッドサイドスペースを広くできるように設えている工夫をしています。

山根:急性期病院としては、処置室を作るのか、それとも病室が処置室だという考えを持ち込むのかによっては、全然方向性が変わってくるんですよね。そういった意味では、今回4床室を主体に作っていますが、急変時事に対応できる広さのベッドの間隔を設けました。当たり前のようですが、実はこれがなかなか広さを取れていない病院もまあまあ見受けられるんですよね。今回はコンパクトに積層していきましたが、病室やステーションについては一切面積を削減することはしていません。

岐部:処置室を作らなかった分、スタッフステーションが広く持てたこと、また処置室まで移動する患者さんの負担を軽減できたことは、本当によかったなと思います。

山根:今はリハビリ室だけでなく、病棟でのリハビリテーション主体に変わっていってますよね。なのでラウンジや廊下幅なども細心の注意を払い設計しています。スタッフの方とリハビリの内容をお話ししながら廊下の幅を決めていきました。
患者さんがスタッフに寄り添ってもらいながら、アラウンドビューのステーションの周りをラウンドできる病棟にしたかったんです。実際そういう運用って今されてるんですか?

岐部:ええ、もちろんです。5〜6階は常に歩行訓練で患者さんがフロアを回っていますよ。廊下が広いので、どんな作業をしていても自由にすれ違うことができますし、怪我もなく、安心してリハビリに取り組めます。


次の記事「落ち着きのあるインテリアや照明を採用 いつでも快適、安心の病棟に」へつづく

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