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1)ユニバーサル外来を目指して スムーズな動線と迅速な連携を実現
2)落ち着きのあるインテリアや照明を採用 いつでも快適、安心の病棟に
患者さんに寄り添う「質実剛健」な病院を目指して
山根:今回、「質実剛健」な病院という、実は私たちも聞き慣れないコンセプトをいただきました。大分市の地域医療をずっと守ってこられているという意味で、市民の方から親しまれる病院、 選ばれる病院づくりっていうことが念頭に置かれてるんだなと思いました。理事長の言葉ですごく私の心に残っているのは「高度に標準化された医療の提供」という言葉です。それがポイントなのかなというのは、この4年間、設計から施工、完成に至るまで考えていたことではあります。そういった意味で川向こうから見るとき、市内から見るとき、誰が見ても大分中村病院なんだとわかる、落ち着いた、決して華美にならない、親しまれる病院作りを心がけましたね。
外観については、病棟と低層部、診療部で色分けしています。診療部においては、患者さんが歩かれる昭和通りや川沿いから見たとき調和する色を考えて、「ONブルー」よりも少し濃いめのものを選びました。一方で、病棟は清潔感を重視しました。病棟は病室が並んでいるので、同じ窓の繰り返しになるんですよね。それらを逆手にとって、あまり目立つような外観にせずに、大分中村病院のロゴが浮かび上がるような配置にしました。
実はこの場所はかつて西鉄グランドホテルが立っていた場所で、新病院を建てるときに西鉄グランドホテルを解体しています。基礎は壊しているけれども杭は残して、地盤が弱くならないように新たに病院の杭を打っています。建物の耐用年数は60年と言われていますが、100年ぐらいは問題なく使えると思います。
岐部:基礎工事の時に議論を重ねていましたね。
山根:西鉄グランドホテルの杭を避けながら新しい病院を配置することと、中心市街地であり住宅地でもある。また、川沿いだからさまざまな建築上の規制がかかるんですよ。日影規制が敷地の形状と周辺環境より、とても厳しい状況でしたので、病棟階のみ部を国道197号側に5m以上スライドさせて前に出した結果、大分川方面に向かって歩く人から見える風景を遮らずに建物が立っているという思いもよらない効果がありました。朝方に川に反射した陽の光が病棟の裏の軒裏に反射して、さらに歩道を明るくしていますよね。
岐部:本当に明るく、日差しが穏やかに登ってきます。川面に立つ病院の良さですね。
山根:今回は、永続的に景観が保障されている大分川の方に病棟デイルームをつくりました。中村裕博士の想いから始まった車いすマラソンのときも、舞鶴橋を渡っている風景がよく見えますよね。
岐部:患者さんが個別で憩えるラウンジスペースからもよく見えます。ラウンジの窓側にカウンターを作っていただいたおかげで、一人でパソコンをされている患者さんもよく見かけます。
山田:エレベーターから出たら、すぐにラウンジが広がって、ホールに明るさも入りますよね。
山根:そうそう。エレベーターホールにガラスを入れて、視線をラウンジの窓側に抜けるようにしたんだよね。
山田:ロケーションは抜群にいいですよね。
岐部:北側も南側もいいですよ。北は特に海が見えますし、南は建物がありますが、光がよく入るのですごく明るいです。
将来を見据えた設計で
次世代、次の世代にも選ばれる病院へ
山根:1階の白い壁にはプロジェクターを映すことができるようになっています。例えば病院のヒストリーをプロジェクターで映し続けたり、デジタルサイネージ機器を床に置かずに映し出せるなど、使い始めてから「あればよかった」にも、少しの改変で対応できるようにしています。
梅野:そうですね。基本設計時のインテリアパースにも入っていました。
山根:社会全体がDX推進されている中で、設計を始めた当初は先進的に医療DXを進めている病院も少なかったですし、その話題は今よりは希薄でしたよね。今はより多くの分野でDXについて話せるようになりました。ゆくゆくはデジタルに慣れた世代が多く来院する時代が到来します。DXがより加速した時にも対応できる病院というのは、当初のプランニングに入っているんですよ。
建物は古くなっていきますが、世の中の変動に対して内部は機能更新などで歩調を合わせていけるようになればいいなと。そんな思いで設計をさせていただきました。待合室も必要以上に大きくしていないのはまさにそれです。ずっと待っている必要ってないんです。 この辺の周辺環境は素晴らしくて、気候の良い日は河原でお茶を飲みながら待つといった環境もそろっていますよね。医療現場のDX化が進み、患者さんの順番が来たら診察に来ればいいようにという考えのもと構築しています。
2025年、すべての団塊世代の方たちが後期高齢者に突入しますよね。より後方支援、地域密着型の医療に世の中が変わっていくと思います。横河建築設計事務所では、時代毎に求められるニーズに対し良質な医療機能を持った空間を提供できる病院施設をお渡ししていくという設計を心がけています。
岐部:旧病院では、2〜3回病棟移転を繰り返したんですよ。構造がほとんど大きく変わらない中で、将来的に転換もしやすい構造になっているのは、すごくありがたいですね。
梅野:当院の柱である「治す医療」と「支える医療」どちらにも活かせるバランスの取れた病院ができたと感じています。
山根:リハビリ室が病棟内にあるのが非常に良くて、病棟リハが中心になっていくと、リハビリのメイン機能って実は縮小していっていいんですよね。これが次の時代どうなるかっていうところは展開がまだ読めないんですが。例えばリハビリの病棟も別の病棟に改修可能な作りになっています。
梅野:「病院全体を使ってリハビリをしよう!」と最初から院長に言われていたので、アラウンドビューの環境がやはりうまくいっていると思います。専門的なことはリハ室で実施し、ADL(日常生活活動)を高めることは病棟で行うなど、今の状況とマッチしていますね。
岐部:フラットな組織とスペースが実現できていると感じます。 建物1つでこんなに変わるんだなと実感しています。
梅野:旧病院は各部署バラバラでしたが、今は帰宅時もスタッフの顔が見えて、いい光景だと感じますね。
山根:病院を建て直されたことによって、良い相乗効果が現れて、担当させていただいてよかったなと思います。今回は、コンパクトに積層することと、理事長の「高度に標準化された医療の提供」というキーワードが、そのまま「質実剛健」というコンセプトに繋がっています。それを支えるのは、病院スタッフの皆様で、それが合致できたということは、創立60年に向けての事業という意味では成功されたのではないかと思っています。
岐部:本当にそうですね。次世代、また次の世代にもずっと頼られる大分中村病院であり続けたいと願っています。